たけがみじゅんこのちょっといい話

2015.02.04

たけがみじゅんこのちょっといい話:付加価値サービス

昨年、JRが発売し、即日販売中止となった『東京駅開業100周年記念suica』がまた売り出されます。追加発売分に対しても300万枚以上の申し込みがあったといい、製作が追い付かないのではないか、欲しい人全員が手にするには3年かかるなど、マニアを問わず話題になっています。何しろ最初の発売suicaは、既に20倍以上の高値をつけてサイトにアップされているとのことですから、珍しいから、数少ないから価値があるといった顧客心理のど真ん中を射抜く付加価値商品なのでしょう。
さてこの“付加価値”という言葉ですが、中にはおまけをつけることだと思っている人もあるようです。
 例えば、ジュースを5本まとめて買うと、ジュースのキャラクターの絵が入ったグラスが1ケついてくる、といった具合です。商品の価値を高めるために、おまけの力に頼ることを付加価値という言葉の範囲に入れるかどうかはさておき、買う側にとっては、どのような価値をつけて楽しませてくれるか、またお得感が持てるかが、商品・サービスを選ぶ時の大事な基準となることは言うまでもありません。
 私の知り合いに昨年、缶詰バーを始めた友人がいます。彼の店は、魚や玉子焼きの缶詰を通常のバーで言う“肴”として出し、その缶詰に合うお酒をおすすめして楽しんでいただくというスタイルで評判になりました。缶詰は、店の壁面にオブジェのようにずらっと並べられ、チョイスしたお客様が、自分で缶切りを使って缶を開け、皿に出さずフタを折り曲げた状態で箸でつついて食べるという、合理的かつ野性味あふれる食べ方を楽しめるのです。お気に入りの缶切りは、「MY缶切り」としてキープもでき、「これは昔の米軍ご用達の缶切り」とか、「小さい頃、母親が桃の缶詰を開けてくれた時のような懐かしい昭和の缶切り」など、缶詰ひとつにそれぞれの思い出や趣味を語ることもできる店なのです。そして、料理は全て缶詰なので、値も張らず、気負うことなく通え、流行もの好きな若い方から、昔を懐かしむ年配の方々まで、それぞれの楽しみ方を見つけ出して通ってくださっているのだと、友人はうれしそうに言っていました。
 商品、サービスへの付加価値を考えるとき、それを使う人が何をどう楽しんでくれるかという視点が、最適な付加価値を発想させてくれます。缶詰は中身を取り出すことを目的として開ければ作業ですが、思い出を引き出す時間と考えたり、道具そのものを懐かしんで触れるという時間とすれば、楽しい時間へと変わります。この時間には快く代金を支払えます。
 ひとつの行為の中から、何を引き出すのかの視点が付加価値を生み出す元となるのですね。サービスを受ける、商品を買うお客様側の視点で、何を楽しんでもらいたいのかを考えることの大切さを缶詰から教えてもらったように感じました。

代表取締役社長 竹上順子

2015年02月