たけがみじゅんこのちょっといい話

2014.09.03

たけがみじゅんこのちょっといい話:真の目的

先日、研修会場の宿泊施設で、小学生のキャンプの一行とロビーで居合わせました。
これから山登りをする子どもたちは、あちらこちらへと飛び回り、先生の「持って来た水筒には、今から順番にお茶を入れて下さぁ~い」の大声の連絡にも、果たして聞こえているのか、こちらが心配になるほどのはしゃぎぶりです。
でもさすが先生です。「お茶、お茶ぁぁぁ」の大声で、準備が終わる30分の間にくまなく全員に数回の“激”を飛ばし、はしゃぎすぎの子どもたちには個別に3回“喝”を入れ、その上、班ごとに巡回しながら、入れたかどうかの確認をするという徹底ぶりでした。
こんなに言わないと守れないのかと驚きつつも、つい最近友人から聞いた一歩間違えば大きな災害になったという話を思い出しました。
その友人は製造業で現場責任者をしています。日ごろから彼の口癖は凡事徹底で、特に工場内での機械の作動時の声だし、指さし確認は口をすっぱくして言っていたそうです。ところがある日、友人の目の前でとんでもない、あわや労務災害となるようなヒヤリ・ハットが起きました。
それは「○○開始、ヨシッ」の声がけなく機械が動き出したことから始まりました。いつもの始動の声がないまま機械は、レバーを入れた社員の死角にいるパート社員さんの上着を挟みこみ、ガガガッという音を立てて動き出しました。
ガガガッという機械音とパートさんの悲鳴に驚いた社員は、あわてて停止作業を行い大事に至らなかったようですが、友人を更に驚かせたのは機械を始動させた社員の「そんなところに人がいるなんて見えなかったよ」という開口一番の声だったといいます。
「すみません」でもなく、「声がけを省き事故を起こすところでした」という反省でもなく、「人がいるなんて知らなかったよ」のひと言は、日ごろの自らの教育の甘さを感じたそうです。
「真の目的をとらえていない」「何度も同じことを言わせる」「単純な間違いを繰り返す」「できなかったら他人のせいにする」などとよく聞きますが、これらは伝え手にしてみれば目的も含めて分からせているつもりでいても、聞き手からすると何度も同じ言葉を聞くうちに、その言葉の真なる目的を通り越し、言葉が伝える行為だけの反復になっている結果なのかもしれません。
こんなことを思い出しながら私は、山登り前の小学生に行われた30分間のお茶入れの反復指導も、やったかやらないかばかりではなく、この内の何分間は、水を持たずに山に登るとどうなるかを自分で考えさせ、理解させるといった、そんな時間も持つべきではないかなと思いました。

代表取締役社長 竹上順子

2014年09月