たけがみじゅんこのちょっといい話

2013.07.03

たけがみじゅんこのちょっといい話:番犬

 仲間内で愛犬家として知られているKさんは、自宅に4匹の犬を飼っています。そんなKさんから先日、私たちに一斉メールが届きました。件名は「飼い犬に手を噛まれる」です。この件名に驚いた私は、指先はメール本文をクリックしつつも、頭の中をフル回転させ彼の4匹の犬を思い出しました。
 私の思索①:彼の家には、洋服を着ている室内犬の“ダックスフンド”と変な顔の“パグ”がいる。私の思索②:庭にはよだれを垂らし、人を威嚇するドーベルマンが2匹いる。私の思索③:きっと彼とその家族は、ドーベルマンに噛まれたに違いない。
と、こんな推測をしながらメール本文を見ると、何とそこにはこんなことが書いてありました。
「一昨日の夕方、ドーベルマンと一緒に山に出かけている間に、我が家は空き巣の被害にあいました。室内には2匹のチチ(ダックスフンド)とワカナ(パグ)がいたのに、2人(彼は2匹とは言いません)は空き巣を敵だとは思わず、30分余りの行為をそのまま見ていたようなのです。疑うことを知らない清らかな心だといえばそうですが、わが妻は、『番犬の役割もできないなんてどういうこと?飼い犬に手を噛まれるとはこんなことなのよ!』と、2日経った今も怒りが収まっていません」と。
 つまり彼が噛まれたのは身体ではなく心の方で、更に心を噛んだのは、大型犬のドーベルマンではなく小型犬の方でした。
 話変わって私の小さい頃は、犬のほとんどは番犬として飼われていました。玄関の近くに鎖で繋がれた犬が、回覧板を持って行った私にワンワンと吠えたことを今でも鮮明に覚えています。
 けれどこの頃は犬を飼う家のどれ位が“番犬”としての役割を、飼い犬に期待しているのでしょう。家族の一員である大切なワンちゃんは、わが子も同様です。危険な番犬の役割など、させられるわけがありません。
 ですから飼い主が番犬の役割を期待していないのに、飼われている犬が、自発的に番犬に育っていくなど、あり得ないのです。
 空き巣に入られたKさんは奥さんのためにも、室内犬に玉乗りをさせ、出来た時には誉めて抱きあげ、ビスケットを与えるということだけはなく、このような時のために不審者の写真を見せ、それに噛みついたらビスケットをやるといった練習を繰り返しておくことも必要だったようです。
またこの“誉められると行動の頻度を高め、褒美がもらえると一層頑張ってしまう”という行動習性は、私たち人間も持っています。ただ他の動物と私たちが違うのは、人間には意思があり、自発性を持ち、考えることができる力を持っていることです。だからこそ、その時々に自分に求められる期待を察し、それに応じた選択をし、行動を起こすことができるのですね。
 でももし最近、あなたの周りでこの力を活かさず「言われたことしかできません」という人がいたら、その人は動物的行動傾向の強い人なのかもしれません。

代表取締役社長 竹上順子

2013年07月